“The Fox”(1)

 2019/12/31

 

 

 邦訳はまだ出ていないのだが、原書をペーパーバックで読み始めたら、あまりに面白いので、やめられなくなり、二回読んだ。一回目はいつものように分からない単語は飛ばし読みで、二回目はそれこそ徹底的に、分からない単語は辞書を引き(辞書はInternetWeblioが非常に使いやすい)、地名はすべてGoogleで所在を確かめ、人名等は、同じくGoogleで調べ上げた。このようなメモを記入していたら、私のペーパーバック”Fox”はもうボロボロ寸前になってしまった。

 

 こんなことをもう二冊ほど繰り返したら、わたしは間違いなく、来年は東京外語大英文科の入学資格ができるだろう。

 

 

 話は、米国のNSA(国家安全保障局)のコンピューターへの侵入事件から始まる。米国の安全保障の要であるNSAに誰かが忍び込んだのだから、おおごとだ。NSAとはアメリカ国防総省の諜報機関である。

 

 どこにあるかというと、下図で分かるようにボルチモアとワシントンD.C.の中間地点のFort Meadという場所。

 

 画像:NSA at Ford Mead, Maryland 

いずれもGoogleMap 2019から

 

画像:NSAのコンピューター室。GoogleMap, 2019

 

 

 世界で最高機密を誇るNSAsecurityが簡単に破られたのだから、米国の大統領が激怒したのも無理はない。早速犯人捜しを始めた。

 

 犯人はなんと、敵対するロシアではなく、でぶっちょ将軍様が独裁する北朝鮮でもなく、サウジアラビアのテロリストでもなかった。犯人は、米国の同盟国であるイギリス・ロンドンの北北西40kmの地点にあるべッドフォード州ルートンという片田舎に住む、しがない会計士の息子だった。アスペルガー症候群にかかって屋根裏部屋でコンピューターをいじる青白い顔をした自閉症の18歳の少年であった。

 

犯人引き渡しを求めた米国にたいし、英国の女性首相はMI6の元職員Sir Adrian Westonを使って、米国大統領と秘密会談を行わせ、こうして米英共同の秘密工作が開始されることになる。

 

 

 

 秘密工作の対象としてフォーサイスが挙げているのは、次の五つである。

 

 実際にはこれらそれぞれにつき、ロシアやイランから暗殺団が送り込まれるのであるが、これらは暗殺団の入国方法や、銃の持ち込み方法や、敵味方の撃ち合い場面であるから、このドタバタ劇は省略することとしよう。

 

 

 

1.      ナヒーモフ提督号(Admiral Nakhimov  P70

 

まず出てくるのは、ロシアが最北の地セフマシュで造船した最新鋭巡洋艦ナヒーモフ提督号である。キーロフ級ミサイル巡洋艦であるというから、下の写真に似た戦艦であろう。

 

画像:キーロフ級ミサイル巡洋艦

 

 

第二次世界大戦後に開発・建造された航空母艦を除く水上戦闘艦としては世界最大であり、非常に強力な対水上打撃力・防空力を備えている。さらに装甲も施していることもあり、ジェーン海軍年鑑などの西側観測筋においては、巡洋戦艦とも通称される。ロシア海軍においても、本級は「""原子力ミサイル巡洋艦」(TARKR)に分類されており、通常の「ミサイル巡洋艦」(RKR)よりもワンランク上の存在と見なされている。

 

 

 

出航したのは、アルハンゲリスクのセフマシュ造船所。アルハンゲリスクはArkhangelskと綴るのだけれども、英語ではarchangel(大天使)なのですね。

 

画像:GoogleMap, 2019

 

 

 ムルマンスクを基地とするこの最新鋭巡洋艦が向かったのは、東洋ロシアのウラジオストクで、処女航海だった。通常は深度の深いアイルランドの西を回遊すべきところ、ロシアの親玉Vozhd(ヴォツド、具体的にはプーチン大統領を指す)2019年初頭に完成したばかりのロシア版GPSシステムGLONASS-K2に誘導され、コンピューターによる水深測定器で自動運行されるナヒーモフ提督号の威容を、敵方である欧州諸国に見せつけるべく、進路を狭隘で水運の激しいドーバー海峡を通らせることにした。

 

 ナヒーモフ提督号がいよいよドーバー海峡に差し掛かった際、なんとこの船はコンピューター指令をまったく無視して、海峡入口に位置するグッドウイン砂洲に乗り上げてしまう。

 

 

 

Goodwin Sands

 

 画像:いずれもGoogleMap, 2019

 赤印がGoodwin Sandsの位置

 

 

 場所はケント州ドーバーの沖合であるから、この惨事を英国人のみならず、全世界の人たちがテレビ画面で見てしまった。

 

 ロシアのボスはクレムリンの自室で怒りに震え、「犯人を捜し出して復讐」することを誓うのである。

 

 

 

注:ちなみにフォーサイスはケント州ドーバーに近いアシュフォード(Ashford)(地図上で青●)の出身だから、彼の生まれ故郷を最初の舞台に選んだのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く