画像:Labwan
私はこうして、簿記の原則にもとづき、ロスチャイルド社の作成したメタノール事業の事業計算(表計算)の再現に成功した。このソフトウエアを使用し、製造品目の製造原単位を入力し、プラント価格、付帯工事費をインプットし、労務費、メンテナンス費用、償却費用、等を表計算のソフトウエアにはめこめば、自動的に貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フローの簿記諸表が計算され、内部利益率が表示されるシステムが出来上がった。
画像:内部利益率
また、この当時、アメリカのコンサルタントによる暦年の石油化学品のガルフ(湾岸)価格が過去10年分以上にわたり公開され始めたたことにより、過去の国際価格を反映した事業計算計算値の信頼性が飛躍的にたかまった。私が50歳頃の話である。
その当時は、日本にはこの程度の簡単な計算を実行できる人材がいなかった。日揮とか千代田化工などのエンジニアリング会社に少数がいるばかりであったが彼らはコンサルタント業務には携わらず、表には出てこなかった。
問題は事業計算の基本原理の構築にあった。この基本原理のソフトウエアが完成したのであるから、わたしはすべての(事業運営に関する)コンピューター計算が実行できることになった。したがって、他社の事業運営の計算書を見るだけで、どこに虚偽が隠されているか、企画者の嘘がどこに表面化されているか、を見抜くことができるようになった。
画像:私は嘘をつかない。
私は私の会社の親会社である某化学会社の心臓部である「経営企画室」に入り込み、私のシステムの正当性と妥当性を検討してもらった。この当時の日本の化学品事業会社はアメリカの主流大学が昔教え込んだビジネス・アドミニストレーション・コースに含まれる事業計算手法(一部筆算)に頼っていた。またその当時の日本の大学には事業計算を教えるところはなかった。調査の結果、私の(ロスチャイルド模倣)システムはアメリカのシステムに合致しておるが、徹頭徹尾コンピューターを使用して計算するところが画期的であると評された。
こうして当社と当社の親会社の間に共通の事業計算システムの評価基準が設定されることになった。二社間に計算システムの互換性が実現したのであった。ただ問題がひとつあった。人の問題である。
実は親会社の経営企画室には厳重な入室規準があって、この厳格さにまず99%の人が簡単に排除されて入室できないのであった。その基準はなにかというと、「嘘をつかない」、「はったりをいわない」ことにあった。商社マンというのはご存知の通り、「嘘をついてその場を切り抜ける」ことを生業としている人たちが大部分で、こういう「くそ真面目」体質は商社マンには馴染まなかった。
これらの人たちは経営企画室への入室を拒否されるのであるから、「当社と当社の親会社の間に計算システムの互換性が実現した」とは言っても、私の属する商社から共同評価作業に参加できる人などまずほとんどいなかった。
具体的な事例を挙げると、その当時の当社の化学品本部長(後の社長)はこの「人の資質」問題で、共同評価作業への参加を拒否された。これがあとになって大きく尾を引くのである。
つまり、私の目から見ると、「魑魅魍魎が這いずりまわる業界」にどっぷりつかっている人間は「実業世界での価値基準」を見失っているがゆえに、ルルギの虚構世界には参加できるものの、実業世界を代表する経団連には参加できないのである。このような資格喪失型人間は、「実業世界での価値基準」が何かを知らないから、経団連から入室を拒否されてもその理由が分からないのである。
私どもの会社は戦後に引揚者を雇用するために設立された新参者の会社であったから、財閥系の会社の社長といえども、正確な事業計算の技術を習得する機会を与えられていなかった。だから、経団連会長から足蹴にされても、その理由が自分で理解できていなかった。そして実際に足蹴にされた。残念なことだが、これが実態なのである。
画像:誤解