ヴィンス・フリン(Vince Flynn)

 2018/03/05

 

 

バレッタBarrett 、アメリカ製

Weight:338 LM, 20" Barrel - 12.92 lbs (5.86 kg)

 

 

 

最近は病院通いのほかは特にすることがないので、金沢市泉野図書館へ通ってハードカバーを順繰りに交換しながら、いろいろと楽しみながら読んでいる。ハードカバーの楽しさは、

 

   1.  わたしたちには紹介されていないアメリカ社会の構造が、私たちの目に見えるように説明されている。一番興

   味深いのは時事問題の裏側構造を説明してくれることだ。例えば中東問題との関わり合いが金の動きとともに詳

     説されているところがたまらなく楽しい。

 

2.  アメリカの現代小説であるから、辞書にもでてこないような流行語、省略語がどんどん出てくる。いちいち辞書を引いておれないから疑問のまま読み過ごし、二回目、三回目に同じ単語が出てきた場合、単語が使われている前後関係から単語の意味を推定するのも楽しい。少なくともボケ防止に大いに寄与すると考えている。

 

3.  アメリカの時事問題を取り扱っているわけだから、舞台の場所が、HISや西遊旅行やユーラシア旅行社などのツアー会社では経験することのできない場所が、映画的な具体的な場所表現で紹介されているから、これも楽しい。アフガニスタンのタリバンの拠点とか、サウジアラビアのリヤドの王宮とか、モロッコの砂漠の果てとか。小説だからそれなりの現実感をもって描写されているので、ユーラシア旅行社のツアーでは経験できない体験を実感することができる。

 

4.  これらのアメリカのベストセラー小説を読むと、アメリカ人の生活感覚ばかりではなく、アメリカ人の価値感覚が手にとるようにわかる。軍隊生活での運動能力と耐久能力によって階級がわかれる感覚。銃器の取り扱い、銃器の殺傷能力、殺傷能力が人間にもたらす階級感覚など。日本の小説では決して説明されることのない「人を殺す価値」が拡大して説明される。

 

 

 最近印象深かったのは、Vince FlynnThe Survivor2015であった。

 

   これが表紙なのですが、原作者のVince Flynn2013年に病死しているから、この本の執筆者は現在、Kyle Millsである。ただしVince Flynnの作り出したアメリカ人の暗殺者ミッチ・ラップがあまりにも衝撃的で鮮烈なイメージを読者に与えたので、代作者が執筆しているにもかかわらず、今でもVince Flynnが表面上の作者となっている。Vince Flynnが創作したミッチ・ラップだから、ミッチ・ラップが登場するかぎり、Vince Flynnが甦るのだ。この”The Surviver”が代作一冊目となっている。

 

フリンの作品ミッチ・ラップシリーズは全てテロリズムに対抗するCIAの暗殺者ミッチ・ラップが主人公である。アメリカを執拗に攻撃するテロリスト集団を解明し、その親玉をアメリカ人のミッチが殺戮する冒険小説である。譬えて言えば、アメリカ版ゴルゴ13である。ゴルゴ13は完全独立型殺し屋であるが、ミッチ・ラップはアメリカのCIAが母体である。ミッチ・ラップの直接上司であるCIA副長官Irene Kennedyの描写がとても素晴らしい。また。ゴルゴ13は単独行動であるが、ミッチは必ずチームをつくる。このチームのなかの人間関係の描写が素晴らしい。アメリカ社会の現実をありのままに見せつけられるようで、とっても素敵な本だ。

 

                  画像:M39 

 

ついでにミッチ・ラップが使用する銃器だが、本書P160に説明されている。バレッタについてはこの記事の冒頭で述べた。

 

                 M39 

 M39 EMR - アメリカ海兵隊が使用するマークスマンライフル。アフガニスタン、イラクなど砂漠地帯で使用される。

 重量 16.5 pounds (7.5 kg)

 使用弾は7.62×51mm NATOで通常のライフルよりひと回り大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像 7.62×51mm NATO

 

命中すれば人の頭など吹っ飛ぶほどの強力な破壊性がある。

 

                     なお、ミッチが通常使っているピストルはGlock(グロック17など)である。

 オーストリア製だが、FBIも採用している優秀なピストル。

 

 

                  画像:グロック17

                  グロック社(オーストリア)最初の民間用モデル。

                    重量 703g

 

 これらのライフルやピストルも丹念に紹介されており、銃に慣れたアメリカ社会を実感させてくれる。

 

  

 日本人には想像もつかないことだが、アメリカ人兵士は、戦場では、弾倉を加えると15kgsにも達する重いライフルを振り回しているわけで、加えて僚友が負傷した場合は彼を担いで退避する必要もある。日本人兵士がはたしてこれらのハードルを越えてアメリカ兵と対抗できるかというと、いささか疑問である。日本人は青年時代から体力増強に専念する必要がある。 ミッチ・ラップを調べていると、平和ボケした日本人との大きな乖離を感じざるをえない。

 

 

 こういう非日常性が次々に解説されるから、このアメリカ版ゴルゴはとてつもなく楽しい。是非一読をお勧めする。

 

 

 

注:Enemy of the State

 

                        画像 

 

 

Enemy of the Stateという名前の映画がある。ホワイト・ハウスがテロリストに乗っ取られ、Will Smithがテロリストと戦い、最終的にテロリストに勝つという内容なのだが、同じ題名のミッチ・ラップ小説がある。Enemy of the State2017である。

 

 

  内容は全く違うのだが、この “Enemy of the State2017も素晴らしい。日本では解説されていなかった9/11事件の裏側が、サウジ・アラビアのイスラム急進派が主犯者であったことをはっきり解説してくれる。サウジアラビア国王は「曖昧主義」で一時しのぎをしたが、この問題は、突き詰めると、ムハンマドの哲学的背景を解明しないと収束しない。ムハンマドとジョン・ロックとの主張の違いを明快に解明しないことには結論は出ないであろう。

 

ただ、この本の英語はまるでパキスタン・英語ででもあるかのように難解だ。文法を無視してくにゃくにゃしている。Kyle Millsはパキスタン出身なのだろうか?